2025年1月20日、大阪高等裁判所は、亡くなった障害児の逸失利益(いっしつりえき)を健常者の全労働者平均賃金をもとに算出するという全国初の判決をだしました。
遺族らは「奇跡が起きた」と喜んでいるとのことです。
逸失利益というのは、本来であれば得ていたはずの利益のことで、先の判決の場合は、亡くなった女の子が生きていたら得られていたはずの利益を指します。
この、逸失利益は障害のある人が被害にあった場合、健常の人よりもずっと低く見積もられることが、常でした。
特に今回のように亡くなったばあい、損害賠償の場面では、命に軽重をつける不条理な現実があります。
今の社会では、障がいのある人の命は軽いと言わざるを得ません。
事件を詳しく見ていきましょう。
2018年2月1日午後3時55分頃、生野聴覚支援学校から下校中の生徒と教諭が信号待ちをしていたところへショベルカーが突っ込み、巻き込まれた女の子が亡くなり、他の4名が怪我を負いました。
女の子はまだ小学5年生(11歳)でした。
運転手は、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪状で7年の服役が確定し服役しています。
2020年1月、遺族は運転手側に対し、6100万円の損害賠償の民事訴訟を起こしました。
この民事裁判で、運転手側の代理である生命保険会社は、聴覚障害児が成長する段階で「9歳の壁」という発達が遅れがちになる特徴を持ち出し、一般女性の40%(基礎収入153万520円)にすべきと主張しました。
その後、裁判の中で聴覚障害者の平均賃金を知ったとのことで被告側は基礎収入を全労働者の平均の6割にとどまる聴覚障害者の平均年収(294万7000円)に主張を変更しました。
原告はこれらの主張を不当な差別であるとし、健常者と同額をすべきとの主張を繰り広げました。
その結果、2023年2月27日に出された大阪地裁の判決では、全労働者の賃金の85%が妥当との判決を出しました。
原告側はこの判決を不当とし、大阪高裁へ控訴しました。
その判決が、1月20日にあったものです。
大阪高裁の徳岡裁判長は女の子について「補聴器や手話を使い、学年相応の学力や高いコミュニケーション能力を身につけていた。収入を減額すべき程度に労働能力の制限があるとはいえない」と認定しました。
また、「デジタル化を中核とする技術の進歩も相まって、聴覚障害者にとって社会的障壁となりうる障害もささやかな合理的配慮により職場全体で取り除くことができるようになっている」と近年の就労環境の変化も指摘しました。
そして、「健常者と同じ職場で同じ勤務条件や労働条件で、同等に働くことが十分だった」として全労働者の平均賃金から減額せずに逸失利益を算定すべきとの判断を下し、運転手側に4300万円余りの支払いを命じました。(NHK WEBより)
優生保護法のときもそうでしたが、社会が確実に変化している一端をこの判決は示しています。