農業について

農業

 

1.

農業をその地域の特色に応じて分けるときには、つぎの4つの区分けがよくつかわれます。

①人口が集中している都市的地域

②平坦な耕地が多い平地農業地域

③林野率が80%以上で耕地率が10%未満の山間農業地域

④平地と山間のあいだにあり、傾斜の多い中間農業地域

この山間農業地域と中間農業地域をあわせて中山間地域といういいかたをします。

今はどちらかといえば、この中山間地域といういい方のほうが多く使われています。

 

中山間地域は、傾斜が多いという地形上の制約もあり、いくつもの面で不利な状況にあります。

たとえば、1ヘクタールの農道は平地の1.7倍の長さを確保しなければならないので、道路整備がなかなか進みません。

汚水の処理は平地に比べて大幅に遅れています。

農業所得は平地では04年から07年のあいだに総所得が6万円増加したことに対し、中山間地域では総所得は45万円減少しています。

農業就業者の一人当たりの農業所得は平地に対し、中山間地域は36万円低い水準となっています。

そのほか、高齢化率は全国平均の10年先の高率で推移していたり、さまざまな条件から耕作放棄の土地が多いといった面も指摘されています。

 

しかし、中山間地域には全国の農家人口の4割以上の人が働き、耕地面積も4割をこえています。

国土の7割近い面積が森林であるという、世界でも有数の森林国である日本の現実を踏まえると、4割という数字は当然のことかもしれません。

すると、先ほどの不利な側面は、平地農業地域や他の産業に比べ著しく不当だということもできます。

跡継ぎがいないという問題も中山間地域の課題にされていますが、都市に出て行った若者達の教育費や養育費は全て中山間地域が担い、都市はその若者達の働いた税収を得ているという面は無視されがちです。

過疎や限界集落ということばが流布されると、防災面の影響が懸念されだしました。

国土保全がされず、洪水が国土を脅かすという理由からでした。

中山間地域がささやかな暮らしを維持するために山野を保全していた結果、国土が安全に保たれていたという事実が逆転し、国土の安全のために限界集落を存続させるという農林水産省の報告さえあります。

日本は森林国家という特色上、中山間地域の存在は有史以来あたりまえの姿だったはずですが、都市への人口集中と過疎の関係から、日本の平均値から遅れて消えゆく印象がもたれがちです。

だからといって、山を切り取り、ならして都市化する発想には無理があります。

農業の難しさは、大多数の都市住民に理解されにくいことが大きいようです。

 

2. 

小さな農地を集めて大きな農地にし、経営の効率化をはかるという主張がよくいわれています。

 実は今から50年前に制定された農業基本法にも「農業規模の規模拡大、農地の集団化」といったことがかかれてあるのです。

 50年前にやろうとしていたことが、今になっても実現していないのは、ふしぎな気がします。

 どこかに実現をはばむものがあったのでしょうか。

 

 50年前の「農業規模拡大」のばあい、高度経済成長と都市の発展が、農業基本法のかんがえていた方向を変えてしまいました。

 地方から出てきた人たちが高度成長を支え都市部の農地はまたたくまに住宅地、工業地に姿をかえました。大規模に農業機械が導入され、農薬が普及し人手のかかる農業が少ない人数でできるようになりました。

 その結果、農村の人口はすくなくなり、農地は減り、他に職業を持っても農業ができるようになったため兼業農家が増えましたが、農地の拡大はいっこうに進みませんでした。

 そして、50年後の今も農地を拡大して効率のよい農業をしようということはいわれています。

ただ、50年前の農地拡大は、都市と農村、工業と農業の貧富の差をなくす目標でおこなわれましたが、いまいわれている主張は動機の面で違うようです。

 

 日本は工業製品の輸出によって発展したのだから輸入にもっと門戸を開くべきだ、という外国からの圧力をきっかけとして、日本の農業も強くしなければならないといった、いわば経済界からの要請があるように思えます。

 TPPという例外なく関税をなくす協定に経団連の米倉会長は早期参加を求めました。

 アメリカは、景気回復のために輸出を2倍にするという方針をとり、TPPという協定を強力におしすすめていくことにしています。米倉会長の発言はアメリカの意向に呼応するものです。

 そのため、農産品の輸入にそなえて、日本の農業を強くしよう、農地の拡大をはかってコストダウンしようという、経済界のために農業のかたちをかえよういっているのです。

 

 しかし、冷静に考えてみて国土の7割が山や森林である日本がいくら工業にたけているとはいえ、なぜ外国の農業製品に太刀打ちしなければならないのでしょう。

 日本の場合、人口一人当たりの農業面積は3.7ヘクタールです。

 それにたいして、EU諸国の平均は23.9、アメリカは59.8、オーストラリアは243.8ヘクタールです。

 さらに日本の場合は中山間地の耕作地が全ての耕作地の4割以上を占めています。

 非常に不便な環境でやりくりをしながら農産物をそだてているのです。

 しかし、この不便な環境の中で日本独特の文化がはぐくまれ、伝承し、懐かしい風景となっていまに存在しています。 

経済はめまぐるしく変化していきますが、社会構造はゆるやかにかわっていくものです。急激な変化はかならず弱いところを回復不可能なほど痛めつけるでしょう。たとえそれが、どれほど大事なものであっても。

50年たっても実現できないものは、それなりの大きく深い原因があると思うことが現実的ではないのでしょうか。